昆虫担当学芸員協議会ニュース12号
Published by Kana on 2003/9/15 (8668 reads)
昆虫担当学芸員協議会ニュース 12号
第11回昆虫担当学芸員協議会総会の報告
本協議会の第11回総会が,2002年9月28日(土)18:00〜21:00に富山市科学文化センターの根来 尚氏のお世話で,同センターの会議室(富山市西中野町1-8-31)において日本昆虫学会第62回大会小集会の形で開催された.本会場とは別会場であったにもかかわらず,29名という多数の参加者を得て,活発な意見交換が行われた.開会の前に根来氏による施設・展示案内があり,非常に有意義な総会となった.
話題提供は「博物館と大学をつなぐ橋?-博物館実習の有効活用法」というメインテーマで,説田 健一(岐阜県博物館),根来 尚(富山市科学文化センター),長田 勝(福井市自然史博物館),巣瀬 司(シラサギ記念自然史博物館)の四氏にお話いただいた.四氏にお礼申し上げる.博物館学講座を開設する大学が増加し,博物館実習の学生受入を依頼されることが多くなっており,かなり負担になっていると思われる.この博物館実習を各博物館がどのように受け入れているかを,具体的に紹介してもらった.大学側の担当者や,実習を行う学生にとっても非常に参考になったと思われる.各氏の報告に関しては,出席されなかった方のために,今号に記事を掲載している.終了後は恒例の懇親会も行われた.
話題提供のテーマの決定,会場の手配と案内,懇親会の準備などで根来 尚氏に誠にお世話になった.根来氏にお礼申し上げる.
総会参加者(50音順)
池崎善博(九大比文),大島一正(北大院・農・昆虫体系),大場信義(横須賀市自然・人文博物館),長田勝(福井市自然史博物館),金沢 至(大阪市立自然史博物館),金子順一郎(群馬県),木俣 繁(山形県立博物館),木村史明(橿原市昆虫館),倉西良一(千葉県立中央博物館),斉藤明子(千葉県立中央博物館),坂本 充(広島市森林公園昆虫館),沢田佳久(兵庫県立人と自然の博物館),初宿成彦(大阪市立自然史博物館),巣瀬 司(シラサギ記念自然史博物館),説田健一(岐阜県博物館),谷田光弘(八王子市役所環境保全課),西口一代(橿原市昆虫館),根来 尚(富山市科学文化センター),長谷川道明(豊橋市自然史博物館),樋口弘道(宇都宮市),久松正樹(茨城県自然博物館),平田慎一郎(きしわだ自然資料館),松本吏樹郎(大阪市立自然史博物館),間野隆裕(豊田市矢作川研究所),宮野伸也(千葉県立中央博物館),矢田 脩(九大比文),山内健生(ホシザキグリーン財団(宍道湖自然館)),山岸健三(名城大学農学部),淀江賢一郎(ホシザキグリーン財団(宍道湖自然館)).
実習生もお客様
説田 健一(岐阜県博物館)
岐阜県博物館では、『学芸員志望者が博物館における諸業務を体験・実習することにより、理論と実践の統一を図り、学芸員として必要な知識及び技術を習得すること』を目的とし、毎年、最大43名(人文分野16名、植物分野4名、動物分野4名、地学分野4名、マルチメディア分野10名、教育普及分野5名)の実習生を受入れ、計5日間の博物館実習を実施しています。平成15年度は計30名を受け入れ、私が担当する動物分野の実習生は4名(理系2名、美術系2名)でした。当館の博物館実習は5日間のうち2日間が選択分野の実習となります。今年度は、当館で「スタディー・コーナー」と呼んでいる小ケース(横幅160センチ)2つ分の資料展示を選択実習としました。
2日間という限られた時間しかありませんので、「リスを展示する」という大きなテーマだけは私のほうで決めました。1日目は「リスの仲間を中心に展示する」というテーマで展示の方針を考え、それに基づき資料の取捨選択をし、資料を説明するためのパネル原稿作成までを目標としました。自由な発想で取り組んでほしいという思いがありましたので、私が実習生にお願いしたことは「難しいことをわかりやすく」とか「まちがったことを展示しない」という程度で、展示方針については全く口をはさみませんでした。悩みながらも「外来種のリスを紹介する」という今日的な方針に落ち着き、展示資料の選択までが何とか完了しました。実習ノートには「僅かな展示スペースなのに考えるのが大変だった。本当に展示が完成するか不安。」と書かれていました。
2日目は展示資料の説明パネルの作成と資料の展示です。この日の私から実習生へのアドバイスは「資料を破損しそうな不安定な位置に置かない」「年配の方が読める文字の大きさ」「パネルの設置角度」「難読文字のあつかい」「剥製の持ち方」など技術的なものだけです。資料の配置などは実習生に全てまかせました。わかりやすく説明することの難しさや頭の中の構想と実際の配置とのズレに苦しみながらも時間内に何とか完成させることができました。「大変だが、楽しかった。」という感想がどの実習生からもあり、「私たちが作った展示を見てお客さんがどのような反応するのか楽しみ」、「これから博物館の展示の見方が大きく変わりそう」など充実したものとなったようです。
短期間の博物館実習で多種多様な学芸員の仕事に必要な知識や技術を習得することは不可能で、資格を取得したとしても、実際、その職に就くには実力以外に運も必要です。指導した学生が学芸員になれば本当に喜ばしいことですが、せめて博物館の面白さを知るリピーターになってくれればと思い、私は博物館実習の指導を行っています。
富山市文化センターにおける
博物館実習等の実施状況
博物館実習等の実施状況
根来 尚(富山市科学文化センター)
当館で受け入れている博物館実習には、大学生(院生)の博物館実習の他、中学生・高校生の職場体験、大学生インターンシップ、中堅教員研修がある。それぞれに形態は違うが、博物館の表には出ない部分を体験し博物館をより深く理解してもらい、博物館の理解者を増やすことを目的に、出来るだけ受け入れている。ここ数年間は、年間のべ230人・日程度となっている。もっとも多いのが大学生(院生)の博物館実習でのべ120人・日程度、次いで中学生の職場体験でのべ60人・日程度である。学芸員もほぼ同程度の時間を取られることになるが、年間の予定に組み入れなるべく効率的に実施するようにしている。各学芸員は、のべ15日間から25日間これらに対応することになる。
実習内容は、1.標本の作成と整理、2.館外調査の補助、3.普及行事の準備と補助、4.展示会の準備、5.その他館内巡視、来観者動線調査、アンケート調査等である。
最も多く時間を取っているのが、標本の整理(自然史分野のみ)で40%程度の時間がそれに当てられ、次いで普及行事の準備と補助(理工系分野と天文分野が多いが、自然史分野でも)で30%程度、その他をあわせて残り30%程度である。
博物館実習の受け入れ方法等を含め、富山市科学文化センターでの博物館実習の実施状況を紹介する。
当館で受け入れている博物館実習(職場体験も含む)
1. 中学生の職場体験
1−1.14才の挑戦
1−2.その他の職場体験
2. 高校生の職場体験
3. 大学生学芸員資格コース博物館実習
4. 大学生インターンシップ
5. 中堅教員研修
受入態勢
館長−学芸課長−実習受け入れ担当学芸員(1名)−学芸員(13名:館長、課長、天文台含む)
(総務課は、実習にはタッチしない。)
中学生の職場体験「14才の挑戦」
富山市内の全ての中学で実施されている職場体験学習で、中学2年生全員が各校下の各種の事業所で5日間(月〜金)、その事業所の仕事を体験するもの。2000年から実施されている。
当館では、近隣3校から各1グループ(5名以内)を受け入れている。
7月と10月、(11月に行われることもあり。5月初旬に、市教育委員会から日の指定がある。)、火から金までの4日間(本来は月から金の5日間であるが、当館は月曜が休館であるので、当館で実習するグループは、その日は学校内で何らかの作業をしているとのこと。)、時間は9時から16時までである。
日替わりで1もしくは2名の学芸員が一日中指導する。1グループにつき5ないし6名の学芸員が関わり、学芸員は必ず年一回は受け持つことになる。
実習内容は、1.標本の作成方法と整理方法の実習、2.館内普及行事の準備手伝い、3.小さな展示会の準備手伝い、4.小学生団体入館者の案内・整理である。
例:富山市立堀川中学校(男子5名)
1日目(火) オリエンテーション、館事業紹介、館内案内・展示見学、
2日目(水) 天文台での実習(展示物の作成、小学生団体入館者の整理・案内)
3日目(木) 館近辺の植物採集、植物標本作成
4日目(金) ロビーミニ展示の案作成、同準備(実際の展示までは至らなかった。)
その他の中学生の職場体験
1日のみの職場体験学習で、一グループ5〜10名を県内(富山市外)の中学校からの依頼により数年前から随時受け入れている。時期・受け入れ校数は不定。1ないし2名の学芸員が指導するが内容は不定。希望時期により判断する。一昨年は2校。昨年は無し。
例:婦中町…中学校
午前:オリエンテーション、館事業紹介、館内案内・展示見学、
午後:河川の簡単な水質分析(パックテスト)
高校生の職場体験
その他の中学生の職場体験と同様、1日のみの職場体験学習で、一グループ10名程度県内の高校からの依頼により数年前から随時受け入れている。時期・受け入れ校数は不定。1ないし2名の学芸員が指導するが内容は不定。希望時期により判断する。昨年、一昨年とも1校。
今後、中学の「14才の挑戦」と同様な複数日にわたる組織的な職場体験学習を実施しようという動きがある。
例:富山県立小杉高校
・天文台での実習(展示物の作成、団体入館者の案内)
同上
・館内での工作教室の実施(小学生低学年向け)
大学生インターンシップ
要するに大学生の職場体験であるが、5日間の実習で1単位となるらしい。開始されて3年目である。
時期は不定、学生と当館の協議によるが夏休み期間となることがほとんどである。一昨年は富山大学理学部2名。昨年は無し。今年は富山大学理学部1名と富山商船高専から1名。
日替わりで1もしくは2名の学芸員が一日中指導する。
実習内容は、1.標本の作成と整理、2.館外調査の補助、3.館内普及行事の準備と補助、4.展示会の準備、5.その他館内巡視、来観者動線調査・アンケート調査等で、学芸員資格コース博物館実習とほとんど変らないが、この場合は博物館学等を履修しているとは限らない(というよりは履修していない。)ので、「博物館」に関するレクチャーに時間を多く取らなければならない。
大学生学芸員資格コース博物館実習
各大学(過去の実習実績のある大学)当て、1月末に、当館の実習生の受け入れ条件を示す。4月初旬に申し込みを受け付ける。
5日から10日間の実習(日数は大学により異なり、富山大学では8日間。H8年度以前は富山大学は18日間であったが、実習生が増えたことから当館からの申し入れによりH9年度以降は8日間になった。)。
理系専攻の学生(院生)のみ受け入れる(当初(昭和59年から実習生を受け入れ。)は文系でも受け入れてきたが、実習生が増えたことと、実習生受け入れ館が増えてきたことで、平成9年度から理系のみとしている)。
受け入れ期間は、原則として、6月から10月の間のうち指定する6期間。一期間の定員3名。(以前は、特に期間は限定せず、実習生と協議し実習生の希望をできるだけ容れるように決めていたが、学芸員の予定を立てやすくするため、同一時期に多人数の実習生が重ならないようにするためと、実習期間内に出来る限り普及行事を含ませるようにするため、一昨年から、期間と人数を限定して受け入れることとした。)
特に決まったカリキュラムは組んでいないが、実習受け入れ担当学芸員が担当可能な学芸員の配置をみながら、なるべく多くの分野と事業を体験出来るように各日の担当学芸員を決める。日替わりで1もしくは2名の学芸員が一日中指導するが、専攻分野に近い学芸員がより多くの日を担当することが多い。
H6年度以前は5名以下であったが、7年から増え、20名以上来た年(H8,9年度)もあったが、昨今は15名前後に落ち着いている。7割程度が富山大学生。新潟大学他が夏休み帰省中に実習に来る。
以前は、サイエンスライブと称している、来館者への展示案内、観察や実験や工作の紹介などを行なってもらっていて、結構本人達も熱心に行ない、また、来館者の評判もよかったが、これには準備期間が3日ほどもかかるので、最近は行なっていない。が、これは再度実施を考えても良いのではないかと思われる。
例1:富山大学理学部生物学教室4年
1日目 オリエンテーション、事業紹介、館内案内、展示見学
2日目 チョウ類標本同定と標本データ入力
3日目 理工展示室での監視兼展示装置説明(後日来館者の展示物への反応に関してのレポート提出)
4日目 土壌動物の抽出と仕分け
5日目 城南公園でのアリ採集と同定(普及行事「城南公園のアリ」の事前学習を兼ねる)
6日目 普及行事「城南公園のアリ」準備、行事補助
7日目 野外植物採集と標本作成
8日目 特別展示室「昆虫展」での来館者の追跡調査(後日レポート提出)
例2:富山大学理学学部物理学教室4年
1日目 オリエンテーション、事業紹介、館内案内、展示見学
2日目 化石のクリーニングとレプリカ作り
3日目 理工展示室での監視兼展示装置説明(後日来館者の展示物への反応に関してのレポート提出)
4日目 土壌動物の抽出と仕分け
5日目 理科工作教室の準備
6日目 理科工作教室の補助
7日目 天文台(夜間)観察会の補助
8日目 野外植物採集と標本作成、配架
ここ4年間の実習生の実習をまとめてみると、約500人・日で、全体として、資料収集関連 は220人・日(約45%)、調査研究関連は100人・日(約20%)、普及教育関連は130人・日(約25%)、展示関連は50人・日(約10%)。
具体的内容:
資料収集関連:植物搾葉標本ラベル添付・配架
動物液浸標本のホルマリンからアルコールへの移し替え
昆虫標本マウント・ラベル添付、ソート
貝類標本ラベル添付・配架
化石クリーニング
寄贈図書整理 等
普及教育関連:科学工作補助
天文台入館者整理・案内
野外行事人員確認安全確保
その他普及事業の補助
調査研究関連:土壌動物抽出・ソート
岩石薄片制作
植物野外調査助手
水質分析
気象データ入力
展示関連:ロビー展示作成展示
特別展準備
常設展示(理工)展示品操作解説
特別展示解説(見張り)
観覧者調査
アンケート実施整理
中堅教員研修
10〜13年目の教員(小学校〜高校教員)に科せられる研修で、学校外の各種事業所での3日間の各種職場体験研修。平成10年度から受け入れ。
夏休み期間中に5名に限って受けいれる。(最初の年は他の期間でもよかったのだが、最近は夏休み期間中と県教育委員会で決めてしまったようだ)
研修生の希望分野により、その分野もしくはそれに近い分野の1名の学芸員が3日間担当する。
内容は、その時期や学芸員によって異なるが、基本的には、資料収集実習(野外採集、標本整理、標本データ入力)、普及教育実習(科学教室・工作教室補助)、展示実習(特別展準備、ロビーミニ展示作成)の3つを行なうことにしている。
例:高校教諭(生物)
実習内容: 1日目 山地の昆虫(蝶類)採集
2日目 標本作成
3日目 同定、ロビー展示用にドイツ箱に配置
博物館実習 =こんなメニューもおもしろい=
長田 勝(福井市自然史博物館)
博物館実習生の受け入れ人数、実習期間はそれぞれの館によって異なるであろうが、当館では夏休み期間中に2〜3名、通常10日間の受け入れを行なっている。2002年度の実習日程は次のとおりである。
8月21日(水) 館内見学(午前)、海産動物標本作製(午後)
22日(木) 標本同定会および映写会準備(午前)、貝類標本整理(午後)
23日(金) 標本同定会受付
24日(土) 標本同定会受付
25日(日) 博物館ホームページの更新
27日(火) 岩石・化石標本整理
28日(水) ムササビ解体(煮沸・肉とり)
29日(木) ムササビ解体(骨とり)
30日(金) ムササビ解体(骨とり・仮組み立て)
31日(土) リーフレット作成・まとめ
各館とも実習メニューを考えるのに苦労されていることだろう。毎回、同じことばかりやっていると指導する側も新鮮味がなくなってくるので、たまには新しいメニューを取り入れる必要が出てくる。
昆虫担当学芸員のニュースに哺乳動物の骨とりのことを書くのは若干気がひけるが、昆虫標本整理の実習紹介ではあたり前すぎるので、2002年度の骨とりについて簡単に紹介しておきたい。
骨とりをしたムササビは、若い個体であった。ネズミ捕獲用の粘着シートに引っかかり衰弱した状態で動物園に持ち込まれたが、手当ての甲斐なく死んでしまったものを博物館が貰い受け、冷凍保存しておいたものである。
骨とり実習の際には、あらかじめ実習生に動物の死体を扱い解剖することに同意を得ておいた。人によってはこうした”汚れ仕事”ができない場合もあるからだ。
骨とりの手順は、まず皮を剥ぎ、内臓を取り除いてから煮沸する。その後、肉を可能なかぎり取り除く。
実際にやってみるとかなり手間のかかるものである。さらに入れ歯洗浄剤に漬け込む「ポリデント法」で完全に除肉する。苛性ソーダで煮る方法もあるが、軟骨が溶けて骨がバラバラになるので、組み立てが大変である。その点、ポリデント法は関節部がそのまま残るので組み立てが楽で、カエル・トカゲなどの骨格標本作りにも有効とのことである。このあたりは盛口 満・安田 守共著「骨の学校」に詳しい。
骨とりは、解体してから組み立てまで継続した作業とそれなりの日数が必要なので、実習のメニューとしてもってこいのものといえるだろう。
この実習の時に仮組み立てしたムササビの骨格は、その後、動物担当の学芸員が仕事の合間に2ヶ月ほどかけてステンレス線で連結し、立派な標本が完成した。2002年春の「収蔵資料展」の際には剥製標本と一緒に並べて展示した。博物館実習の成果品であることを併せて解説したこともあり展示は好評であった。
博物館実習生への対応
巣瀬 司(シラサギ記念自然史博物館)
当館は「高校附属の博物館」としては、全国で初めての施設であり、開館してから17年が経過した。展示物や収蔵品、年2回発行している「イグレッタ」という広報誌、各種の特別展、そして自然観察会等、それなりの価値のあるものを所蔵し、それなりの活動はしているつもりであるが、その存続は難しい。
このような博物館だが、ほぼ毎年、大学生がこの博物館で実習を行っている。実習生には、現状の説明と館内の案内をし、水槽の清掃を手伝ってもらう。次に「見沼たんぼ」という高校に隣接する巨大緑地での「歩行虫と蝶」の調査や「アシナガバチ」の調査、「交通事故にあった昆虫」の調査などに付き合ってもらう。彼らがいない方が早く済むのだが・・・。標本作成やソーティングも組み入れることが多い。ただ、これも教えるのに時間がかかり、演者の時間の節約にはならない。特別展の準備を手伝ったり、魚を採ったり、野鳥を観察したり、様々な体験をして実習は終わる。彼らが学芸員になったという話は、聞いたことがない。しかし、彼らは博物館と、外の世界との間の「一つの開かれた窓」なのである。
以上は日本昆虫学会第62回大会の際の講演要旨である。今年も夏に2名の実習生を受け入れた。これまでの実習生には埼玉大学の学生が多く、浦和学院高校の卒業生は一人もいなかったのだが、今年の2名は本校の卒業生であった。お互いに気心が知れているという点では安心感があった。例年通りの実習内容であったが、「自然を見る目を養う」ことにはなったと思う。
大阪自然史フェスティバルが
開催されました
開催されました
松本 吏樹郎(大阪市立自然史博物館)
去る2003年3月21日から23日の3日間,大阪市立自然史博物館において,大阪自然史フェスティバルが開催されました.実質上の世話役となった博物館学芸員はこのような催しに取り組むのは初めてのことで,準備期間中,そして本番とドタバタの連続でした.ようやく落ち着いて振りかえる余裕がでてきましたし,何かの参考になるかもしれませんので,舞台裏を含めた経過を報告したいと思います.
今回のフェスの目的はひとつが大阪周辺の自然に関する市民グループ同士の交流を図ること.もうひとつが一般市民来場者にこれらのサークル・団体のことをもっと知ってもらうことでした.自然史博物館の周辺には数多くの研究グループや学会,大阪を中心に活動する自然保護団体などがあります.これらの団体は同じ大阪の自然を対象としてはいますが,お互いの活動を知る機会はほとんどありません.そこでこれらの団体が一堂に会するような場を博物館に設定して,大いに刺激しあってもらおうということになったわけです.そして一般の市民にも身近にこんな面白いことをやっている人達がいるんだなぁと感じてもらえたらというのが目指すところでした.
さて,このように計画で声かけを始めたわけですが,どれくらいの団体が参加してくれるのか実際のところは全く予想できませんでした.ところがふたを開けてみると,さぁ大変.〆切に近づくにつれ参加希望団体がどんどん増え,最終的には 85もの団体が参加してくれることとなりました.予想を上回る団体数に仕掛けた側としてはうれしい悲鳴ですが,同時に世話役としての苦労が始まりました.各参加団体との調整,パズルのようなブースの配置,展示ケースの割り振りや,机やいすの調達.配布したポスター・チラシはあっという間に足りなくなり,増し刷りの希望も思った以上にでてきました.私の担当は展示パネル類でしたが,これも非常に手間の掛かる仕事でした. 今回のフェスでは展示づくりに関しては博物館がお手伝いするということにしました.つまりパネルを展示しようという団体には,スキャナーや,パソコン,大型プリンターといった博物館の機器を使ってもらい,希望があれば学芸員がそのお手伝いをするという形式です.実際に作業に取りかかると一部の参加者を除いてこれらの機器を扱える人はほとんどおらず,1から10まで一緒に作業することになりました.作業をした方によると,学芸員になったみたいで面白かったと好評ではありましたが...フェス前のほぼ1ヶ月半の間,毎日何らかの形で,この仕事が入り,直前は打ち出しばかりやっているという状況になってしまいました.
準備会場では自分のブースの準備の合間に,他団体のブースをのぞきに行く参加者の姿がよく見られました.参加者同士,話が盛り上がり,お互いに交流し,刺激し合える格好の場となったようです.これまでの独自の活動の成果や対象の標本や実物を展示し,配布物,販売物をならべ, 相当の意気込みを持って,本番を迎えてもらえたようです.参加型のプログラムを行う団体あり,非常に元気のいい中学・高校生のブースありで,各会場は熱気に包まれていました.講堂では団体紹介や講演会・シンポジウムが行われ,こちらも盛況だったようです.
結果として3日間で推計2万人が来場し,予想を上回る数の参加団体がそれぞれに刺激をしあって,市民もそれに触れることが出来た,貴重な機会であったと思います.地域の自然に関わる団体が元気であるということは,そのコアでありたいと願う博物館にとっても非常に望ましい状態であることは言うまでもありません.単に博物館に集まると言うだけでなく,共同でフィールドにでていくなど将来の夢も広がります.毎年連続かどうかは議論の余地があるものの,こうした試みを一度で済ませるのはもったいない.継続してこそ効果があるというのがスタッフ共通の認識となっています.一方で世話役の負担が大きすぎたり,博物館の周辺地域へのアピールが十分でなかったなど反省もたくさんでています.今後は不足していた部分を補うと同時に,運営・準備に関わってくれるようなスタッフを確保するなど,やり方を工夫し,得るものと負担のバランスを十分に考える必要があると思います.
メーリングリストとホームページの開設
昨年の総会の後の懇親会で、メーリングリスト(ML)をつくろう、という声があがりました。その後の半年間、準備を進めて、2003年5月5日にようやく稼働することになりました。[me-ml:0000*]といったタイトルのメールが届いていれば、すでにアドレスが登録されていますので、今後もメールが届きます。まだメールが届いていない方は、事務局(kana@mus-nh.city.osaka.jp)までお知らせ下さい。すぐに登録します。当面は、昆虫、博物館・昆虫館、協議会のことなど、何でも話題にしてかまわないと考えています。どんどん発信して,情報交換の場に使って下さい。また、それに伴い、ホームページ(HP)が開設されました。URLは「http://www.mus-ent.jp/」です。
まずMLの使い方と注意事項について簡単に解説します。すでに届いたメールに返信して、参加者全員に知らせたいときには、メールソフトのメニューから単純に返信を作成すれば、ML宛になります。もし、異なる話題であれば、新たに新規メッセージを作成して、me-ml@mus-ent.jp宛にお送りください。
このMLはfmlというフリーのサーバプログラムにより稼働しています。fmlは広く使われていますので、ご存知の方が多いと思いますが、各メールのヘッダにヒントが記されています。本文に「help」とだけ入力したメールを、me-ml-ctl@mus-ent.jp宛に出すと詳しい使い方を解説したメールが届きます。
また、MLへの投稿に際しては、次の注意事項を守って下さい。
1.メールはなるべくテキスト形式にして、html形式はお止め下さい。これはどのMLにおいても標準的なマナーです。マイクロソフトのOutlook系メールソフトでは、デフォルトでhtml形式のメールを出す設定になっていますので、お気をつけ下さい。この方針はメールソフトの進歩・情勢の変化により変更されることもあります。
2.添付ファイル形式の悪質なウィルスやワームが横行していますので、しばらくの間はファイルの添付は禁止です。
3.差別的な発言メール、他人の誹謗中傷を含み、多数の参加者が不快と感じるメール、単なる宣伝メールを出さないようにお願いします。そのようなメールの発信者のアドレスは、管理者の方でMLから削除することがあります。
4.昆虫・博物館・昆虫館などの情報を集積し、参加者の過去ログ検索の利便性を向上させるために、メールの全文検索システムを構築しています。開設したHPの会員ページ(メールでお知らせするパスワードで入れます)内に設置しましたので、会員のみが検索システムを利用することができます。MLに流れたメールは、全て全文検索システムの対象になります。誤って送信されたメールも対象になりますのでご注意下さい。電話番号などを知られて困るようであれば、署名から削除しておいて下さい。
以上、メーリングリストme-mlと当協議会の円滑な運営のために、ぜひご協力をお願いいたします。
HPに関しては、デザイン面を後回しにして、便利さを追求する方針で構築中です。ぜひアクセスしてみて下さい。会員ページはとても便利と思います。
第12回昆虫担当学芸員協議会総会のご案内
今年も日本昆虫学会大会の小集会として総会を開催します.
今回の総会では,今ホットな話題となっている薫蒸問題を中心に,博物館資料の管理方法を検討します.昆虫担当としては,昆虫資料の保存方法だけでなく,標本を食害する昆虫の専門家としても意見を求められることが多いでしょう.長年にわたり専門とされている斉藤さんの基調講演の後,民間業者の経験も豊富な中村さんのお話を受け,宍道湖自然館の新人の林さんに図書資料の活用・保存方法について話題提供していただきます.文化財関係者,歴史系博物館,美術館の担当者にとっても非常に参考になるでしょう.積極的な参加をお願いします.終了後は恒例の懇親会をいつものように行う予定です.
記
会場:神奈川県厚木市船子1737 東京農業大学厚木キャンパスの
日本昆虫学会第63回大会F会場
日時:2003年10月13日(月)15:45〜17:45の2時間
話題提供:「博物館資料の新しい保存対策」
1.臭化メチルに替わる燻蒸法とIPM
これまで博物館資料の殺虫・殺菌の目的で臭化メチルと酸化エチレンの混合ガス(商品名エキボン)が一般的に使用されてきた.ところが,臭化メチルはオゾン層破壊物質であることから2004年末で全廃されることが決定しており,また酸化エチレンについては発ガン物質であることが指摘されている.このような中で,これまで被害予防のために安易に実施されていた大規模な収蔵庫燻蒸に対する問題意識が高まりつつあり、すでに実施していない博物館も増えている.
近年,文化財保存の観点からこの問題について深刻に議論されているが,自然史関係者では問題意識はあるものの優先度の低い課題とされているように思われる.しかし,自然史資料においても害虫・カビなどによる被害は大きな問題であり,真剣に取り組むべき課題である.そこで,最近使用され始めた新薬剤の効果と問題点,薬剤を使用しない処理の方法,文化財分野における総合的有害生物管理:IPMの考え方について紹介する.さらに,中央博物館での害虫モニタリング調査の実施例について報告し,大規模な燻蒸に替わる自然史資料の保存対策について話題を提供したい。
2.屋内昆虫調査による防虫対策の検討と応用
博物館内の防虫対策を効果的に行うため、栃木県立博物館では5年前から博物館施設内の昆虫の分布調査を行い、問題となる昆虫に対して個別に対応できるよう取り組んでいる。大量の薬剤を用いる全館殺虫と異なり、屋内害虫を発生箇所ごとにピンポイントで攻撃するため、薬剤の使用をおさえながら、効率の良い防虫対策を行うことができる。
実際に行っている屋内昆虫の調査方法と、調査結果の分析方法、防虫対策へ応用と効果について紹介する。概略は次の通りである。
調査方法
工場や倉庫などで行われている方法を応用する。餌や誘引剤を用いない粘着トラップと食品害虫用のフェロモントラップを施設内各所(栃木県博では約100地点)に1週間から10日間設置し、捕獲された昆虫やクモなどの種類と個体数を記録する。
窓枠など明るいところに集まる昆虫の死骸を定期的に回収して記録する。
分析方法
一定の調査期間に捕獲された屋内の動物を・野外からたまたまやってくるもの(ユスリカやタマバエなどの双翅目が多い)、・屋内で発生し世代を繰りかえしていると思われるもの(屋内性クモ類、チョウバエ科の一部など)、・博物館資料に直接的な被害を与える可能性があるもの(ネズミ、ゴキブリ、シバンムシ、ヒョウホンムシ、カツオブシムシ、チャタテムシなど)に分け、施設内の分布図を作成し、進入経路、発生源などを推定・調査する。
応用と効果
・は人が出入りする施設である以上、ある程度は仕方ないが、・、・については発生源を見つけ、発生の原因を取り除き、殺虫を施行することが必要となる。
何れも特に目新しい対策ではないが、当館では漫然とした殺虫作業を行っていた頃に比べて、捕獲される屋内害虫の種数、個体数ともに減少させることができた。さらに、無視できない効果の一つに、博物館職員の防虫意識の向上があげられる。この調査方法の問題点として、標本箱などの密閉された空間で増殖する害虫は検出されにくいことと、館独自で調査をする場合、まず間違いなく昆虫担当学芸員が担当となり、業務の負担が増すことが考えられる。
3.「白水隆文庫」の受入・保管と「続・日本産蝶類文献目録」の発行について
この貴重な資料から蝶類に関わる文献を白水博士がていねいに拾いだしたものが有名な短冊形の白水隆蝶類カードである。1977年以前の文献については、「日本産蝶類文献目録」として1985年に北隆館から発刊され、その続編が「続・日本産蝶類文献目録」である。これには、1978〜2000年までの日本産蝶類に関する全ての文献、約6万件がまとめられている。本書については、白水隆文庫刊行会(代表:西山保典事務局;事務局:ホシザキ野生生物研究所)によりこの7月に出版された。
本講演では、この間の受入・保管・整理・出版の経過を博物館資料の保存対策一例として紹介する。
昆虫担当学芸員協議会ニュース 12号 (2003年9月15日印刷・発行)
発行:昆虫担当学芸員協議会
事務局:大阪市立自然史博物館昆虫研究室
(金沢 至,初宿成彦,松本吏樹郎)
〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1-23
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