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昆虫担当学芸員協議会ニュース11号

Published by Kana on 2002/9/15 (10819 reads)


昆虫担当学芸員協議会ニュース 11号


第10回昆虫担当学芸員協議会総会の報告


 本協議会の第10回総会が,東北大学川内北キャンパスにおける日本昆虫学会第61回大会B会場で2001年9月22日(土)16:30〜18:30に小集会の形で開催された.36名という多数の参加者を得て,活発な意見交換が行われた.

 植物防疫関係の制限緩和により,博物館施設における生品展示の可能性が広がり,これまで不可能だった大型カブトムシやクワガタムシなどの生品展示により,入館者が増えたという館もある.一方,輸入されたクワガタムシやチョウが野外で見つかるなど,弊害も指摘されている.話題提供では,「昆虫館・博物館における生品展示の明と暗」というタイトルで,この問題に関する各館の取り組みが報告された.「昆虫館の生品展示について」を中谷 康弘氏(橿原市昆虫館)に,「生品展示ブームと博物館の役割」を永幡 嘉之氏・木俣 繁氏(山形県博物館ネットワーク)に,「外国産チョウ類の輸入展示と問題点について」を坂本 充氏(広島市森林公園昆虫館)に,「生態系攪乱のおそれを展示することの意義とその試み」を奥山 清市氏(伊丹市昆虫館)に話していただいた.五氏にお礼申し上げる.各氏の報告に関しては,出席されなかった方のために,今号に記事を掲載している.話題提供の後,大学関係者からもかなり活発な意見が出され,あっという間に時間がたって,恒例の懇親会へと議論が持ち越された.生品展示を実施していない博物館にとっては,生態系への影響をふまえて,その弊害を展示に生かすアイデアを得ることができたのではなかろうか.当協議会が発足してから10年になり,終了後は恒例の懇親会もいつも以上に盛大に行われた.

 話題提供のテーマの決定,会場の手配,懇親会の準備などで木俣 繁氏(山形県立博物館)に誠にお世話になった.木俣氏にお礼申し上げる.

総会参加者(50音順)

 池崎善博(長崎昆虫研究会),市川憲平(姫路市立水族館),上田恭一郎(北九州市立自然史博物館),大場信義(横須賀市自然・人文博物館),奥島雄一(倉敷市立自然史博物館),奥山清市(伊丹市昆虫館),長田勝(福井市自然史博物館),小田切顕一(九大比文生物体系),金沢至(大阪市立自然史博物館),金子順一郎(渋川市),木俣繁(山形県立博物館),倉西良一(千葉県立中央博物館),近野匡生(山形県立酒田西高校),坂巻祥孝(鹿児島大学農学部),坂本充(広島市森林公園昆虫館),坂本洋典(東京大学農学部応用昆虫学研究室),初宿成彦(大阪市立自然史博物館),杉本雅志(日本直翅類学会),巣瀬司(シラサギ記念自然史博物館),谷田光弘(八王子市役所環境保全課),中谷憲一(大阪市立環境学習センター),中谷康弘(橿原市昆虫館),中西明徳(兵庫県立人と自然の博物館),中村剛之(栃木県立博物館),永幡嘉之(山形県博物館ネットワーク),久松正樹(茨城県自然博物館),松本吏樹郎(大阪市立自然史博物館),溝田浩二(宮城教育大環境教育実践研究センター),三時輝久(山口県立山口博物館),村山茂樹(森山町教育委員会),矢野真志(面河山岳博物館),屋富祖昌子(琉球大学農学部),山内健生(ホシザキグリーン財団(宍道湖自然館)),山鹿百合子(美幌博物館),喜田和孝(丸瀬布町昆虫生態館),淀江賢一郎(ホシザキグリーン財団(宍道湖自然館)).



橿原市昆虫館の生品展示について


中谷 康弘(橿原市昆虫館)

 橿原市昆虫館の放蝶温室を中心に解説したい。

 平成元年の10月開館した。約500平方メートルの大温室内で放蝶するチョウ種については、温室環境に対する適応性や飼育のしやすさ、寿命の長さ、展示効果などを考慮に入れ、沖縄・南西諸島産のマダラチョウ科を中心に展示することにした。最も重要なのが、食草の確保と栽培技術の確立でした.現地の石垣島地方のどこに自生しているのかすら不明の状態。栽培方法に至っては、雑草と同等のつる性植物の故、皆無。栽培方法を試行錯誤の結果、実生苗からの食草栽培が最も効果的なことがわかり、自給自足の食草栽培を目指して大量栽培することが可能になる。飼育方法には、学生時代のハバチやアメリカシロヒトリの大量累代飼育方法を参考に、透明の味噌カップ(ボンカップ)を使用して何とか、年間を通して、10種以上300匹程度のマダラチョウ類の大量累代飼育を確立。並行して、成虫の蜜原植物もランタナを中心に、人工ネクターの併用で解決した。

 平成13年度で、開館して13年になるが、その間の問題点を指摘したい.最重要なのが食草の安定供給.その際に問題になるのが、害虫対策。放蝶温室内基本的には農薬は使用できない。主要害虫は、アブラムシ類、ハダニ類、オンシツコナジラミ、カイガラムシ類、カメムシ類であるが、実験的にオンシツツヤコバチ、チリカブリダニ、テントウムシ類などの捕食性の生物天敵を利用して害虫対策を実施。様々な試行の結果、最も効果的なのが、手先で害虫をつぶして除去する人海戦術に落ち着く.農薬を使用する場合でも、脱皮阻害材などホルモン系農薬を害虫の被害が大きい場合にのみ、食草栽培用温室で最小限に使用するのみである。5年以上同じ温室内で食草を栽培していると、塩類の集積や、線虫などの病気など食草に連作障害が多発してくる。累代飼育を行う際、近親交配で死亡率の上昇が見られることがあるが、オオゴマダラの場合、100匹程度の母蝶の維持と年2回の現地石垣地方での野生個体の採集補充で何とか維持できている。放蝶数が50匹を維持できない場合、病死する個体が頻発し、死亡率が上がり、累代飼育が困難になる時期もある。

 平成3年度には、蝶と共存できる魅力的な生物ということで、ハチドリの導入をした。学生時代、ハチを研究していたからということだろうか、なぜか鳥類のハチドリの飼育係りも担当するようになった。

 開館前から予想がついたことであるが、将来的に現地の石垣地方での母蝶の採集や食草の乱獲問題が心配された。現地の住民感情を配慮して、永続的に現地と友好関係を保つために、現地の石垣島で食草栽培圃場を開設し、石垣島からも食草を定期的に補充してもらっている。その危惧していたことの一部が現実化してしまい、竹富島では、チョウの採集が禁止されてしまった。昆虫館を単なる観光・娯楽施設ではなく、昆虫を通して自然を考える施設としての意味付けをするために、現地の石垣市内の小学校と提携してチョウ(オオゴマダラは石垣市の市蝶)チョウを中心に環境教育の素材として利用してもらえるように働きかけている。採集と保護という矛盾した命題に学術的(生物学的・生態学的環境教育的)な意味付けをもたせるのは、学芸担当職員の腕の見せ所であろう。

 放蝶温室のイベントとして、来館者に蝶についての学習効果を高めるために、温室内で産卵植物、寿命調査のためのマーキング調査、放蝶サービスなども実施して、蝶の生態などを解説している。

 環境教育の素材としては、蝶の卵に寄生するタマゴバチ類などの寄生性の昆虫や、生物農薬を利用した害虫防除の実例、ハチドリと蝶、蜜原植物を巡る生物間の相互関係などの解説も有効である。

 珍品・希少種をみせるための単なる見世物小屋・娯楽施設に終わらせないよう配慮が必要である。将来を担う子供たち生品展示は、飼育の維持に大変な手間がかかるが、生きた昆虫類、生物の展示は、生物を知るきっかけとしては、最も効果的な手段のひとつかもしれない。子供たちの驚嘆・感動の一言で、飼育の苦労は一発で吹き飛んでしまうことが多い。来館者をひきつける集客性と、生物に対するより深化した学習性とのバランス、両立を考慮した展示手法・生物種の開発はしんどいけれど、とてもやりがいのある分野である。



生品展示ブームと博物館の役割


永幡 嘉之・木俣 繁(山形県博物館ネットワーク)


 カブトムシ・クワガタムシの飼育ブームに伴い、1999年秋に外国産生品の輸入が解禁され、すでにカブトムシ・クワガタムシばかりでなく、解禁されていないハナムグリ類までもが、全国各地の小売店にまで普及している。この結果生じることが予想される、放虫による生態系攪乱や遺伝子汚染の問題については、しばしば議論されているが、ここでは博物館が啓蒙活動において果たすべき役割について考えたい。

 昆虫標本を販売する業界においては、売り手も顧客も昆虫について相応の知識を持った、いわゆる虫屋がほとんどを占めていたが、生品は扱う人間や顧客の層がはるかに広いため、より単純に商品として扱っている例が多く、商業ベースに乗って、これまでにない扱い方をしている例が今後数多く出てくることが予想される。例を挙げると、カブトムシ即売場においてコスト削減のため、餌を与えずに販売していたことや、結婚式で多数のチョウを放すというビジネスが実際に業者によって試みられていることなどである。

 生き虫の輸入解禁については,研究者から非難が多く出されているが、実際に何らかの行動をしている人は、まだ少ないのが実情だろう。筆者らは、山形県内において啓蒙活動を行ってきたが、そのなかで、現在の博物館が社会的に果たすべき役割を考えてきた。以下に、現状では活動が不足していると考えた事柄を列記する。

・日本産の昆虫についての知識の啓蒙

 ニュース性の大きい外国産のカブトムシ・クワガタムシばかりが取り上げられているが、実際に遺伝子汚染や自然分布の攪乱を招くという点においては、むしろ日本産の昆虫のほうが影響は大きいと考える。特に、ホームセンターなどで廉価で販売されているオオクワガタなどは、すでに産地不明となったものが全国各地で放されることにより、都市の近郊で採集されたものが自然分布かどうかの判別ができなくなってきている。外国産の輸入解禁をきっかけに、なし崩しになっている日本産の昆虫に対しても、より重点的に啓蒙活動を行う必要があると考える。

・分かりやすい情報の提供

 「遺伝子汚染や生態系攪乱は、果たして本当にあり得るのか」という疑問をしばしば耳にする。例えば、ギフチョウは日本国内においても、斑紋、食草、産卵習性、出現時期などに差があり、生息地の気候に対する生態的な適応が顕著であることから、地域外のものを野外に放すことには問題があるという説明材料に好適であるし、外来魚オオクチバスによって、水生昆虫が大きな打撃を受けていることは、外来種による生態系攪乱の顕著な例である。このような事柄を、わかりやすい形にまとめて啓蒙することが、今の博物館に求められていると考える。現実離れしたこととして捉えられている外国産生き虫の話題を、身近な例を用いて現実の問題として認識させることが必要なのではなかろうか。



外国産昆虫の生体展示に思う


坂 本 充(広島市森林公園昆虫館)


 10年前には貴重だった異国の生きた昆虫たちも,今やホームセンターの特売品となる時代である.8年の経験を積んだ今もなお揺れている,外国産昆虫の生体展示にまつわる筆者の思いを告白してみたい。

1.輸入事情と現況

 わが国での外国産の動植物の輸入は,「国内産植物の保護」を目的とし,1950年に制定された「植物防疫法」によって厳しく規制されてきた.しかし1997年に輸入条件が緩和されたのに伴い,生体展示を目的とした輸入許可が従来よりも取得しやすくなり,さらに異常ともいえる昆虫ペットブームを背景として,1999年の48種を皮切りに,2002年3月の時点で203種ものカブト・クワガタムシ類が「検疫有害動物」の指定外とされるに至っている.その結果,ペットショップや昆虫生体販売店には,従来から「検疫有害動物」の指定外であった外国産食肉性昆虫や食糞性昆虫などとともに,「解禁」となったスターコウチュウ類たちが所狭しと,しかも安価で!展示即売される状況となっている.また,外国産生体昆虫をメインに据えた各種イベントは,デパートなどで開催される営利目的のものは言うに及ばず,自然史系博物館や昆虫館の定番となりつつさえある.

2.なぜ外国産昆虫の生体展示か?

 筆者が勤務する広島市森林公園昆虫館でも例に漏れず,筆者が輸入の担当となって外国産昆虫の生体展示を実施しており,輸入許可申請の回数は5月現在で9回を数え,「解禁」種を含めた展示総種数は41種にのぼる.入手に神経をすり減らす「検疫有害動物」対象種を含む外国産生体昆虫を展示する目的は何なのか?最大の目的は,施設の運営実績に貢献するための,珍奇なものへの興味や既成の人気にあやかった「入館者の動員」といえる.いわゆる「ひと寄せパンダ」の任を外国産生体昆虫に背負わせるわけであるが,同時に「入館者の動員」につながる展示は,「魅力的な展示」と言い換えることができ,仮に「入館者の動員」が第一の目的であったとしても,一概に非難されるべきものとは言いがたい.実際に彼らは結果を出してくれるのである.しかし,入館者実績の向上を念頭においた企画展の実施にはどこか後ろめたさが付きまとうもので,「昆虫を理解するきっかけになれば…」「子供たちの期待にこたえる…」など多少のまともな言い訳も用意することになる.かつて本館で「要望があるから…」を理由にカブトムシの生体を販売する話が持ち上がった際,筆者はひとり「モノではなくノウハウを…生きたカブトムシではなく採集の知識や楽しさを教えるべき」と強硬に主張したことがあった.しかし,アトラスオオカブトムシを採集した経験のない筆者にその方法や魅力を十分に語れるはずもなく,さりとて合法的に輸入されペットショップの常連となっているスターコウチュウ類を,「悪しきもの」として無視する理由も見つからないまま外国産昆虫の生体展示を容認してきたのが実情である.あるいは外国産の種類を展示していない動物園や水族館,植物園はないだろうし,自然史博物館や昆虫館がそれをしたところで,倫理上の問題があろうはずもない.

3.「夢」の提供への疑問

 ところが筆者自身が外国産昆虫の生体展示に,賛否のいずれにも割り切れない感情を抱いていたころ,こんな出来事があった.ヘラクレスオオカブトムシの展示開始日に,テラリウムを覗き込みながら子供が父親に掛けた言葉が「パパ,ヘラクレスが見られたから,僕もう死んでもいいや!」と,心のわだかまりを払拭してくれる一言だったのである.何とも学芸員冥利に尽きる言葉ではないか!しかし,折にふれてシーンを回想するうちに,この言葉の裏に別の解釈が潜んでいることに気がついた.わが国では風土的・文化的な背景を理由に,いわゆる昆虫少年が育ちやすく,自然指向の子供は主要な外国産昆虫についてたいてい豊富な知識を持っている.そんな彼らにとって,例えば憧れのヘラクレスオオカブトムシの生体を間近に見て触れることは「夢」の実現にほかならない.「夢」とは一朝一夕に実現しないから抱き続けることができるものなのであり,もしそれがいとも簡単に実現してしまったなら…「夢」を失った子供たちは新たな「夢」を探さなくてはならなくなる.つまり視点によっては,「夢の安易な提供」は子供たちからの「夢の剥奪」と同意義なのではないだろうか.もちろんゾウの生体を展示している動物園が,日々子供の夢を奪っているという解釈は誤りである.それが昆虫だと先述の解釈が生じるのは,昆虫と大形哺乳動物との親近感の差異によるものかもしれない.憧れの頂点に君臨していたヘラクレスオオカブトムシの生体を労せず実見した昆虫少年は,果たして次にどのような「夢」を持つのだろうか.

4.シリアスな諸問題

 外国産生体昆虫のわが国への販売を目的とした合法的な進入は,それらを展示する際に覚える(かもしれない)子供からの「夢の剥奪」感や,ゲームソフトの購入と同じ感覚で「夢」を購入することの子供の心理に及ぼす影響のほかに,下記に挙げる現実的でシリアスな問題を抱えている.
■ 脱出あるいは放置個体の野生化
■ 野生化個体と在来種による交雑(遺伝子汚染)
■ 寄生生物の蔓延
■ 感染症の発病
■ 原産国における乱獲や採集による環境の悪化
■ ブームの加熱による非合法種の不正輸入

5.生体展示の「正しいあり方」とは?

 では外国産昆虫の生体展示を実施する際,どうすれば子供からの「夢の剥奪」に荷担しつつも担当職員自身が納得しかつ有意義な展示を実施することができるだろうか.それには,ただ生体と最小限の解説パネルだけを展開する安直な方法を避け,先述のシリアスな諸問題を明確に解説し,それらの危険性を訴えることが必要なのは明らかである.「解禁」となった外国産昆虫の生体が巷に溢れている現実がある以上,これは昆虫担当学芸員の新たな使命ということができる.シリアスな諸問題が十分に解説されるのであれば,外国産昆虫の生体展示は各施設でむしろ積極的に実施されるべきであろう.また,生態写真や生息環境写真はもちろん,可能であるなら原産国の風土や文化にも触れ展示に厚みを持たせることも必要だろう.子供を含む観衆に対して昆虫が単なる「オブジェ」ではなく「生きもの」であることを理解させるよう努力すべきであり,これによって「夢の剥奪」感を回避あるいは緩和できるはずである.そして,「夢」としての外国産生体昆虫を所有する欲求をいたずらに刺激されやすい状況にある子供たちやその保護者に対し,「身近な自然の尊さ」や「正しい生命感」を日常の活動を通して繰り返し伝えることが,今日昆虫担当学芸員にもっとも期待される任務のひとつといえるのではないだろうか.

 筆者がこれまでに関わった外国産昆虫の生体展示のすべてが,先述の「正しいあり方」つまり「真っ当な展示」を実践していたわけではない.しかし子供たちが身近な昆虫との関わりを持たないままペットショップに「夢」を買いに走る風潮を看過することは筆者には堪えがたい.外国産昆虫の生体展示に関わらざるを得ない立場にあって,日常の啓蒙活動を通し,あるいは展示現場において,求められる責務を可能な限り真っ当に果たしたいと考えている.



「すごいぞ,世界のカブトくん
クワガタくん」を開催して


奥山 清市((伊丹市昆虫館)


 伊丹市昆虫館では、昨年夏カブトムシ・クワガタムシをテーマにした特別展「すごいぞ,世界のカブトくんクワガタくん」を開催した。そのテーマゆえか人気は高く、期間中の来館者24,527人は昨年同時期と比較し約25パーセント増であった。また、この特別展ではカブトムシとクワガタムシを同時に呼称する言葉として「カブクワ」という略称を多用した。正直言って、最初は戸惑ったが、簡潔で覚えやすく呼びやすいため、来館者(特に幼児・児童)に好評であり、展示をわかりやすくするためにも大きな効果があった。以降、この特別展のことを「カブクワ展」と呼ぶことにする。

 さて、当館では、効果的な展示を製作するために、来館者調査を精力的に実施している。もちろん、これはカブクワ展でも実施し、示唆に富む興味深いデータを得ることができた。

 例えば来館者の日本のカブクワの飼育経験については,「飼育したことがある」(86%),「ないが機会があったら飼育したい」(10%),「飼育するつもりはない」(4%)という回答であった。また「飼育したことがある」と答えた方に,具体的な種類を聞いたところ,カブトムシ(88%),ノコギリクワガタ(26%),ヒラタクワガタ(22%),コクワガタ(18%),ミヤマクワガタ(18%),オオクワガタ(12%),スジクワガタ(2%)というものであった。

 同様の質問を,外国産のカブクワで実施したところ,「飼育したことがある」は対照的にわずか6%で,他は「ないが機会があったら飼育したい」(46%),「飼育するつもりはない」(48%)であった。飼育を希望する層と希望しない層がほぼ半々に分かれ,その人気や関心の高さと相反し、実際に飼育するとなると意外に消極的であることに驚いた。しかし,理由を聞いたところ「飼育が難しそう」「うまく育てる自信がない」等,まだ不明なことの多い飼育技術への不安によるものであり,今後容易に飼育できる方法や道具が普及し,外国産カブクワの飼育は難しいというイメージが払拭されれば,飼育者数が爆発的に増加することも考えられる。

 また,平成11年11月より,生きた外国産カブクワの輸入が可能になったことについては,「知っていた」と答えたのは53%であり,ほぼ半数の方はまったく知らなかった。

 外国産カブクワが野外に逃げ出した場合の生態系への悪影響について尋ねたところ,「知っていた」(48%),「今回の展示で初めて知った」(25%),「まったく知らなかった」(25%),「その他」(2%)という回答であった。ただし理由を説明した後で,「今後,外国産カブクワを飼育する機会がある場合は,責任をもって管理し,絶対に野外に逃がさないようにお願いできますか」と尋ねたところ,ほぼ全員(98%)が,「はい」と答えてくれた。
 もちろんこれらのデータは、伊丹市昆虫館の来館者によるものであり、普遍的に適用し得るものなのかは不明である。ただ、多少なりとも同様の展示を企画している方々の参考になれば幸いである。

 さて、当館では、これらのデータを参考にして、「昆虫館からのおねがい」というタイトルで、来館者へのメッセージを込めた普及啓発展示を製作した。これは外国産カブクワのもたらす生態系攪乱や遺伝子汚染とう問題を、イラストを用いてできる限りわかりやすく展示にしたものである。この展示パネルに使用した文面は以下のようになった。

 「もし、皆さんが飼っている外国のカブトやクワガタが,家の外に逃げ出したらどんなことになるでしょうか?それが日本のものよりも,体が大きくて力の強い種類だったら,日本のカブトやクワガタは,エサをとられたり,ケンカに負けたりしてケガをするかもしれません。ひどい場合は,弱って死んでしまうこともあるでしょう。絶滅してしまうことだってあるのです。それだけではありません。もともと日本にいない種類の昆虫が,外国からやってくると自然環境のバランスが崩れて,たくさんの問題がおこるのです。みんなが大好きな外国の"カブクワ"を悪者にしないためにも,外国のカブクワを飼育する時には,"絶対に逃がさない・最後まで責任をもって飼育する"ことを約束してください。伊丹市昆虫館からの心からのお願いです。」

 この展示や文面については、ある程度の成果はあったが、まだまだ消化不良の面は否めないと考えている。機会があれば、皆様からご意見等頂きたい。


アサギマダラマーキング調査への協力依頼

 マーキング調査により,アサギマダラは台湾あたりから春に北上し,秋に南下することがわかってきています.環瀬戸内地域(中国・四国地方)自然史系博物館ネットワーク推進協議会の応援で,アサギマダラ移動調査の参加協力団体がマーキングパンフレットを作成しました.各地方の博物館へお渡ししますので,関心のある方に配布していただければ,ありがたいです.(大阪市立自然史博物館:金沢 至)


会費納入のお願い

 同封の振替用紙で会費の納入をお願いします.会費は年額1000円です.会費は,ニュースの発行と会員外の方に講演をお願いする場合の旅費補助に支出しています.ニュースの発行回数も年1回のことが多く,会員外の方に講演をお願いすることも少ないのですが,今後は協議会のHPの開設やメーリングリストの設置費用にまわしたいと考えています.最近,会費を払っていないなという方は,適当な金額をまとめてお支払い下さい.(事務局)


第11回昆虫担当学芸員協議会総会のご案内

 今年も日本昆虫学会大会の小集会として総会を開催しますが,会場は,大会事務局長であり,演者でもある根来 尚氏のご厚意で,根来氏が勤務されている富山市科学文化センターの会議室で開催されます.お間違いのないようにお願いします.これまでは大会会場のスケジュールに合わせて,慌ただしく閉会していましたが,今回は科学文化センターの施設案内をしていただいたり,終了時間の制限も無いなど,ゆったりと総会を開催することができそうです.大会運営でお忙しい中,お世話していただく根来氏に感謝いたします.
 すでに会員へ送付されている昆虫学会大会のプログラムに印刷ミスがあり,後半の演者のお二人が抜けています.さらに総タイトルも間違っております.今号の案内が正しいタイトルです.演者の皆様に大会事務局にかわりましてお詫び申し上げます.
 博物館学講座を開設する大学が増加し,博物館実習の学生受入を依頼されることが多くなっています.本来の業務と異なる博物館実習に数日間かかりきりになる煩雑さはありますが,人手の足りない日本の博物館では,貴重な労力となっている場合もあります.今回の総会では,この博物館実習を各博物館がどのように受け入れているかを,具体的に紹介してもらいます.大学側の担当者や,実習を行う学生にとっても非常に参考になるでしょう.積極的な参加をお願いします.終了後は恒例の懇親会をいつものように行う予定です.


会場:富山市科学文化センター会議室(富山市西中野町1-8-31)
   日本昆虫学会第62回大会小集会
日時:2002年9月28日(土)18:00〜21:00

話題提供:「博物館と大学をつなぐ橋?
-博物館実習の有効活用法

1.岐阜県博物館の博物館実習について

      説田 健一(岐阜県博物館)

 岐阜県博物館では、『学芸員志望者が博物館における諸業務を体験・実習することにより、理論と実践の統一を図り、学芸員として必要な知識及び技術を習得すること』を目的とし、毎年、最大43名(人文分野16名、植物分野4名、動物分野4名、地学分野4名、マルチメディア分野10名、教育普及分野5名)の実習生を受け入れ、計5日間の博物館実習を実施している。
 今回は、当館の現在の博物館実習実施要綱の概要と今年度の博物館実習の実施状況について報告する。

2.富山市科学文化センターでの博物館実習実施状況
     根来 尚(富山市科学文化センター)

 当館で受け入れている博物館実習には、大学生(院生)の博物館実習の他、中学生・高校生の職場体験、大学生インターンシップ、中堅教員研修がある。それぞれに形態は違うが、博物館の表には出ない部分を体験し博物館をより深く理解してもらい、博物館の理解者を増やすことを目的に、出来るだけ受け入れている。ここ数年間は、年間のべ230日・人程度となっている。もっとも多いのが大学生(院生)の博物館実習でのべ120日・人程度、次いで中学生の職場体験でのべ60日・人程度である。学芸員もほぼ同程度の時間を取られることになるが、年間の予定に組み入れなるべく効率的に実施するようにしている。
 実習内容は、1.標本の作成と整理、2.館外調査の補助、3.普及行事の準備と補助、4.展示会の準備、5.その他館内巡視、来観者動線調査、アンケート調査等である。
 最も多く時間を取っているのが、標本の整理(自然史分野のみ)で40%程度の時間がそれに当てられ、次いで普及行事の準備と補助(理工系分野と天文分野が多いが、自然史分野でも)で30%程度、その他をあわせて残り30%程度である。
 博物館実習の受け入れ方法等を含め、富山市科学文化センターでの博物館実習の実施状況を紹介する。

3.福井市自然史博物館における実習生の受け入れ
長田 勝(福井市自然史博物館)

 福井市自然史博物館では例年1〜3名の博物館実習生を受け入れている。実習期間は夏休み期間中の7〜10日間で、当館のように学芸員が少ない施設ではかなりの負担となる。
 実習内容は、・館内見学 ・標本作製・整理 ・リーフレット作り ・行事補助 など初歩的な学芸業務をひととおり経験してもらえるよう工夫している。
 学芸員資格取得者は毎年相当数が世に送り出されるわけであるが、実際に学芸員として採用されるのは極めて限られた数にすぎない。しかし、博物館実習というものを博物館理解者の裾野を広げる一環として捉えると、実習での印象は大きな意味を持つように思われる。短期間の実習とはいえ実りのある体験となるよう心がけたいものである。

4.博物館実習生への対応
巣瀬  司(シラサギ記念自然史博物館)

 当館は「高校附属の博物館」としては、全国で初めての施設であり、開館してから17年が経過した。展示物や収蔵品、年2回発行している「イグレッタ」という広報誌、各種の特別展、そして自然観察会等、それなりの価値のあるものを所蔵し、それなりの活動はしているつもりであるが、その存続は難しい。
 このような博物館だが、ほぼ毎年、大学生がこの博物館で実習を行っている。実習生には、現状の説明と館内の案内をし、水槽の掃除を手伝ってもらう。次に「見沼たんぼ」という高校に隣接する巨大緑地での「歩行中と蝶」の調査や「アシナガバチ」の調査、「交通事故にあった昆虫」の調査などに付き合ってもらう。彼らがいない方が早く済むのだが・・・。標本作成やソーティングも組み入れることが多い。ただ、これも教えるのに時間がかかり、演者の時間の節約にはならない。特別展の準備を手伝ったり、魚を採ったり、野鳥を観察したり、様々な体験をして実習は終わる。彼らが学芸員になったという話は、聞いたことがない。しかし、彼らは博物館と、外の世界との間の「一つの開かれた窓」なのである。

昆虫担当学芸員協議会ニュース 11号 (2002年9月15日印刷・発行)
発行:昆虫担当学芸員協議会
事務局:大阪市立自然史博物館昆虫研究室
      (金沢 至,初宿成彦,松本吏樹郎)
     〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1-23
     TEL 06-6697-6221(代) FAX 06-6697-6225(代)
     E-Mail kana@mus-nh.city.osaka.jp
     振替口座:00920-6-138616 昆虫担当学芸員協議会


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